撮影当日には、もう勝負がついている

周年記念映像や社史ドキュメンタリーの見積もりを取ると、会社によって「調査」の扱いがまるで違うことに気づくはずだ。撮影と編集だけで組まれた見積もりと、事前調査を独立した工程として積んだ見積もり。この違いは、そのまま完成する映像の質の違いになる。なぜ調査がそれほど重いのか。今年、私たちのグループの海外窓口に届いた、映像制作とは少し毛色の違う依頼が、それをよく教えてくれる。

依頼主は家系調査の分野で活動する海外の方だった。大阪にルーツを持つ家系を先祖まで辿り、存命の親族を探し、先祖の墓所を特定したい。滞在はすでに予約済みの5日間。手元にあるのは、一族の古い住所と、数十年前の電話番号がいくつか、そして亡くなった親族が遺した記録のスキャンだ。結論から言えば、この案件は予算の折り合いがつかず、私たちは受けなかった。だが検討の過程には、「記録を辿る仕事」の本質が全部詰まっていた。

一つの依頼の中に、三つの別々の問題があった

まず戸籍。日本の戸籍制度は世界的にも例外的なほど完全な家系の記録で、閉じられた戸籍(除籍)まで遡れば、数世代前の名前・日付・続柄が分かることがある。ただし取得できるのは直系の子孫だけで、血縁を証明する書類が要る。窓口へ行けば見せてもらえる、という話ではない。しかも記録は市区町村単位で保管されるから、一家が転居していれば、目当ての書類は古い手紙の住所から一時間離れた役所に眠っているかもしれない。明治・大正期の戸籍は手書きの崩し字で、現代の読み手にはそのままでは読めない。戦災で失われた記録もある。

次に、古い電話番号。数十年前の番号は、今も親族につながることもあれば、まったくの他人が出ることもある。有望に見えて、確認に最も抵抗する種類の手がかりだ。

最後に、現地。菩提寺の過去帳に眠る記録は、役所のどの書類にも載っていない。そして寺に記録を尋ねるのは手続きではなく関係の構築で、正しい作法と言葉で、時にお茶を挟んでからようやく本題に入る。

私たちの答え — 調査が先、約束はしない

経験の浅い業者ほど、日当を見積もって「すべて実現できます」と請け合う。私たちは逆をやる。記録が現存するか、番号がつながるか、寺が記録を開いてくれるか。これは調査を実際にやるまで誰にも分からない。実現可能性は約束するものではなく、調査という仕事の成果物なのだ。だからこの種の案件は必ず二段階に分ける。第一段階は渡航前の事前調査で、役所に当たってどの記録が現存し何の書類を持参すべきかを確定させ、預かった番号への接触を試みる。依頼主はその結果を知ってから飛行機に乗る。第二段階が現地での実働だ。事前調査を飛ばせば、閉まった扉までの案内に料金を払うことになる。

周年記念映像でも、構造はまったく同じ

ここまで読んで、国内で周年記念映像や社史ドキュメンタリーの発注を担当する方には、既視感があるはずだ。

創業期の写真はどこにあるのか。倉庫の8ミリフィルムはまだ再生できるのか。社内報のバックナンバーは揃っているのか。創業メンバーや退職した功労者に、今からインタビューを頼めるのか。頼めるとして、記憶は撮影に耐えるのか。周年映像の質を決めるのは撮影機材でも編集技術でもなく、この「何が残っていて、誰に会えるのか」の調査だ。そしてこれは、撮影日程が決まってから片手間にやる作業ではない。構成そのものが調査結果の上に立つ。残っている素材で語れる物語と、語れない物語があるからだ。

見積もりを比べるときは、この工程がどう扱われているかを見てほしい。「撮影一式・編集一式」だけの見積もりは、一見安くても、調査を発注者側の宿題として返してくる。素材の在処の確認、権利関係の整理、インタビュー対象者との調整が「御社でご用意ください」に化けるなら、それは安くない。逆に、事前調査を独立した費用として正直に積む会社は、着手前に「何が実現できて、何ができないか」の地図を渡せる。周年という締切は動かせないからこそ、この地図が担当者を守る。社内への説明も稟議も、この地図の上でなら通せる。

調査は製品である

古い日本家屋の室内で露出計と資料を手に下見するスタッフのシルエット、窓から差す金色の光
調査そのものが、映像に先立つ一つの成果物だ。

タイトなスケジュールの依頼主に私たちが提供できる最も価値あるものは、楽観ではない。「何が、いつまでに分かるか」の正直な地図だ。「お任せください、すべてやります」で始まったプロジェクトは、百年前の記録が欠けていたと判明した日に不信へ変わる。調査とは取り寄せではなく研究だと理解している依頼主は、正しい物差しでプロジェクトを測れる。私たちは、守れない約束で案件を取るより、予算の理由で案件を失うほうを選ぶ。2012年の創業以来、公的機関や製造業の記録映像・企業映像で積み上げてきたのは、この順番を守る仕事の仕方だ。

周年・社史の映像をご検討の方へ

大笑映像制作は、企業プロモーション映像とブランドドキュメンタリーを手がける大阪拠点の映像制作ブランドです。周年記念映像・社史ドキュメンタリーは、素材が揃ってからではなく、「何が残っているか分からない」段階からご相談ください。アーカイブの現存確認と関係者の所在確認から工程を設計し、撮影日を迎える前に、語れる物語の輪郭をお見せします。

大笑映像制作 / Daisho Productions

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